2009年11月アーカイブ

冬支度

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どんよりと鉛色の雲に覆われた朝を迎えた。
時々北側の窓が風に吹かれてカタカタいう。

ヒヨドリの鳴き声もすっかり冬のものである。

顔を洗う水も身にしみる様になった。

すでに冬支度をする時をとっくに超したらしい。
仕方ないのでストーブを用意することにした。

物置を兼用した三畳の部屋からアラジンのストーブを引っ張り出し、
近くのガソリンスタンドに灯油を購入しに出かけた。

街路樹の落ち葉が乾いた音をたてて転げ回る。
冷たい風に思わず身を縮ませてしまう。

こういう風景が自分の年齢を映し出しているようで思わず涙ぐんでしまうのである。


ストーブに火を灯した瞬間の油の匂いが冬の風物詩でもある。
幼い頃にストーブで平太郎を焼いて食った事が昨日のようである。


アラジンのストーブに青い炎が立ったとき
再び部屋に暢気な時が訪れる。

そうだ、今日はストーブでスルメを炙って一杯やろう。

朝からそんな事を楽しみに、つまらない一日を過ごす事にした。


キュウリ魚君の紹介で月に数回小学校へ行くことがある。

簡単にいえばボランティアで児童の教育に協力することである。


キュウリ魚君の紹介ならということで板垣退助のような顔をした校長も歓迎してくれた。


そんなことから小生は時々小学校に出入りをしているのである。

そんなある日のこと。


その日の役目も終えて校門に向かった。
校門の近くにはニワトリ小屋がある。

そこに児童数人が集まり、なにやらこそこそしている。

一体何をやっているのか遠目に観察していると、
細い棒でニワトリの尾っぽを突いているのである。

一体どういう了見なのか、しばらくそんな悪ふざけを続けていると
とうとうニワトリも我慢できずに「コケッコッコー」と
一発雄叫びを上げた。

そのあまりのおおきな鳴き声に流石の悪童達も
一目さんに逃げ出した始末である。


50センチメートルはありそうな立派な雄鳥は
さらに続けて「コケッコッコー」という。

いい顔をしている。

時々パソコンを習いにくる頑固な廣田の爺さんのような顔である。


最近では悪童の悪ふざけにたいして
こうも凛として一括する大人が減ってしまった。

それというのもこれというのも小金丸の奥方のような連中の責任である。
やれ生徒を叱っただのどうだのと喚き散らし放題の連中の責任なのである。

少しは校庭のニワトリを見習えばよいのである。

ワニを食った話

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シロン君達と別れて帰ろうとしたら名月君からメールが来た。

今日は美味い物を食わせるから是非来いという内容である。


森林公園で散策したばかりでわざわざまた名月君が来いという房総までは行く気になれない。

今日は生憎用事があると適当に断った。

それから数日後、名月君は実に美味い物を食ったと自慢を始めた。

何がそんなに美味かったのかと尋ねると、

ワニを食ったと言う。


キュウリ魚君は少し怪訝そうな顔をしてワニといえばハンドバッグになるワニのことですか、と聞き返した。

いやいや、そのワニではない。

一寸変わった食い物だったが、随分と美味だったと威張る。

けれどもキュウリ魚君はあまり興味を示さない。

彼はオートミールを食っていれば満足する人種である。
美味とは無縁な人らしい。


けれどもエイのヒレ君は名月君の美味い物を知りたくて仕方ない。

「ほう、では一体どんな食い物だったのですか」

「そうだな、その香ばしさたるや鰻の蒲焼き以上。その味はまるでアンコウの肝のように濃厚だった。」

「で、その正体は?」

そうだな、そのうち食わせてやっても良い。

そう言うと得意げに小籠包をポイと口に放り込んだ。

放り込むと口に肉汁が飛び出し、熱い熱いと大騒動である。


とうとうワニの話どころでは無くなってしまった。


シロン君のこと

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シロン君は胃が弱い。
なにしろ芸術家だから職業病のようなものである。
だからシロンばかり飲んでいるのでシロン君である。

シロンはパンシロンの姉妹品である。
パンが付かないだけに地味だがなにより安いので愛用者は案外多いのかもしれない。

最近では胃痛にはH2ブロッカーがよく効く。
けれどもやっぱりシロン君はシロンを愛用している。
おそらく彼にとってシロンは生活の一部なのだろう。

そんなシロン君とその奥方で近くの森林公園を散歩した。

シロン君と奥方は正式に結婚をしてない。
けれども一般の夫婦よりも仲がよろしい。
仲はよいが子供はいない。

どうやら訳ありらしいがその訳は誰も知らない。


名月君はいつも訳を聞きたがるが、シロン君は苦笑いするばかりで決して秘密を明かさない。

シロン君の奥方は牛乳のような色白で瞳の大きい美人である。

今日は髪を上げているので首筋がなんとも色気を醸し出している。
思わず引きつけられてしまいそうである。

三人は赤や黄色に敷き詰められた落ち葉の上を歩きながら落ち葉の匂いを楽しんだ。

「この公園には青ゲラがいるんだ」

シロン君がそう言うと、案外キツツキは身近にいるものですねと奥方が答える。

今日は一段と空が青いね。と小生が全く関係ないことを言うと

「青ゲラの青は空の青ぢゃない。淡い緑の模様があるのさ」

シロン君がそう言うと、奥方は頭には赤い模様があるのと私に教えたくれた。


霜月の木漏れ日は柔らかい。
裏寂しくなるヒヨドリの声に鈴なりの柿がよく似合う。
時計の針が殊の外ゆっくり動いているようである。

小春日和の晩秋の一時はシロン君と奥方を一枚の絵に閉じ込めたかのようである。


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気の置けない友人と会話も進み、楽しい一時が過ぎる。

そんな時熱いお茶が有り難い。

更に甘いものがあれば更に会話も弾むことであろう。

 

仕事が一段落したとき、一杯のお茶と甘い物も嬉しいものである。

 

紳士にとって甘い物といえば羊羹、最中、かりんとうと相場は決まっている。

高級な菓子を特別に取り寄せてみるのも贅沢な楽しみである。

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酔っぱらった名月君は酒を混ぜた牛乳を猫に差し出す。
猫は恐る恐る舐めてみる。

一回、二回と舐めて納得したのか、これは案外うまいという顔でしきりに飲み始めた。
飼い主のキンカン坊主はすっかりご機嫌で居眠りしている。


名月君は美味そうに酒入りの牛乳を飲む猫を眺めながらこれからの日本について話し始めた。

政権が変わろうともこの国の行く先は見えてこない。
近頃の政治家はどうも器が小さくていけない。

我々庶民と感覚が変わらないから困る。
もっと夢を語ってもらわないとね、元気もでない。

俺なら石油に変わる新エネルギーを国策でやるね。
居眠りしていた坊主が突然喋りだした。

散々酒入り牛乳を飲んで足下をふらつかせる猫を懐にかかえながら続けた。

まずは電気自動車のインフラを整備する。
全国のガソリンスタンドに電気注入器を作る。
勿論、電気は石油なんぞ使わないで供給する。
全てのエネルギー資源を電気に変えるのだ。

そして電気自動車をがんがん作る。

そのための投資をするのだよ。
勿論そのための研究開発費とか教育にも力を入れる。
世界に冠とした電気立国を作るわけだ。

ほほう、流石は工学博士。
とても坊主の考えとは思えないと名月君は褒める。
褒めながら、酒入りの牛乳を猫に差し出すと、猫は坊主の懐を離れてまた牛乳を舐め始めた。

キンカン坊主は猫を放ったまま続けた。

次に朝鮮半島に海底トンネルを掘って新幹線を走らせる。
新幹線は朝鮮半島から中華を横切り、蒙古に行く更にはヨーロッパへ出てイギリスまで渡るのさ。
ちまちま新幹線技術を売ってまわるより、日本の技術で新幹線をイギリスまで走らせれば良いのだ。
これで鉄道技術と新エネルギー技術をまとめて世界に売ることができるわけぢゃ。
東京とロンドンがレールで繋がれば日本とヨーロッパは急接近できる。
アメリカに対してもいい牽制にもなるはずぢゃ。

どうかな?

名月君はそれは名案だと言って更に猫に酒入りの牛乳をやる。
流石に猫もふらふらである。

名月君とキンカン坊主で飲んだ日のことである。

近くのスーパーで買ってきた猪肉の鍋に舌鼓を打ちながら
名月君はすっかり上機嫌である。

「キンカン坊主はなんて言ってもキンカン頭が素晴らしい。
第一そのテカリ具合が上品だ。
大抵はそうはいかない。
それもこれもキンカン坊主の精進の賜物に違いない」

そう言って盛んに有難がる。


酒も手伝って丁度いい案配の色が出て、
熟れ頃のキンカンのようである。

「そもそも工学博士の坊主なんて滅多にお目にかかれない。
その点我々は恵まれている。
やっぱり、どういうのか、あの仏門の世界は相対論で数式化できないものかね」

名月君の問いかけにキンカン坊主もお調子者だから早速数式を並べ立てた。

akeisu.gif

てところかな。
わけのわからない数式をポン酢の醤油で障子に書いてみせる。

「これはすごい。あんたはやっぱり天才だ」
名月君が褒めるとキンカン坊主はさらに調子にのり
歌いだし、踊り出した。

そして終いには着けているものを全部ぬいで赤パンツ一丁で裸おどりをはじめた。

大騒動である。

退屈で退屈で死にそうな程退屈な時がある。
せっせと働くサラリーマン紳士には羨ましいことであろうが、
退屈な本人は結構深刻である。


退屈の代償が貧乏に跳ね返ってくるからである。

そして退屈な時はロクなことを考えない。

そんな時、名月君から電話があった。

暇だからキンカン坊主のところに遊びに行こうというのである。


小生も死にそうに暇だから早速そうすることにした。


名月君は酒好きで理由をつけては酒を飲んだ。
酒を飲むと名月や名月やと言うから名月君なのである。


キンカン坊主はその名のとおりキンカン頭をした坊主である。
坊主とはいえちゃんと工学系の大学を卒業している。
それがいつの間にか坊主になったのである。
経緯はよく分からないがキンカン頭になるとなんだか有難い。
不思議なものである。

キンカン坊主のところへは小生が先に着いた。
わずか1間しかない木造のアパートの2階である。

大して見晴らしもよくない窓から外を眺めながら
どうでもいいような近況を喋っていたら
名月君が現れた。


名月君は現れるや「コーコケコ」と言う。
おや、と驚いたらまた「コーコケコ」と言う。

よく見ると名月君がコーコケコと言っているのではない。
名月君がコーコケコを持っているのである。


どうやら彼の魂胆はその鶏を水炊きにしようというのである。

まさか江戸時代でもあるまい。
生きた鶏をかかえてこられてもキンカン坊主も困りはてるより仕方がなかった。
しかも当の本人もさばけるはずもない。

散々思案の末、坊主の部屋のベランダで飼うことになったのである。
毎朝アパートから「コケコッコー」の声に
近所の方も不思議がっているに違いない。
水炊きになる運命をなんとか逃れたコケコッコーは今日も「コケコッコー」と暢気に鳴いていることであろう。

今朝早くキュウリ魚君から電話があった。

たいそうな鼻息で電話してくるものだから余程の大事件だと青ざめた程である。


ところがその内容はキュウリ魚君の抗議であった。

「いったい全体どういうおつもりですか。

牛の首をネタに牛肉を売るなんぞ考えられないことです。

あなたは本当に真人間なのですか」

そんな風にいきなりまくし立てられたのだから堪らない。


思わず、悪かったと受け答えてしまった。

しかしながら、よく考えると小生は「牛の首」の内容はさっぱり聞いていない。
聞いていないのだから牛肉を売ろうが豚肉を売ろうが勝手なはずである。


キュウリ魚君に文句をつけられる言われはない。


そこで、そうまで君が僕のことを叱りつけるのなら
その「牛の首」の話を聞かせてもらおうぢゃないかと言ってやった。


そうするとキュウリ魚君はいつもの彼に戻ってなんだかもぞもぞ言うばかりである。

まったくもって困った男である。

怪談「牛の首」

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巷の小学生の間で「牛の首」についてひそかに話題になっている。

聞いてみると何でもこの世でこれ以上にないほどに恐ろしい話らしいのである。

ある小学生など泡を吹いて失神したほどだと言う。


早速その[牛の首」の話の内容を知りたくて、近くの小学生に聞いたが。
たいそう恐ろしい話だから誰も教えてくれないらしい。

ならば、小学校の先生のキュウリ魚君に聞いてみることにした。
キュウリ魚君は近くに寄るとキュウリの臭いがするからキュウリ魚とあだ名が付いた人である。

小生はなんだか古池のような臭いのするキュウリ魚君を訪ねて「牛の首」の話を持ち出した。

そうするとキュウリ魚君は少し戸惑った顔をみせながら、あまり詳しくは知らないのですが、と前置きをしながらも小学校の先生らしからぬおどおどとした口ぶりで話しを始めた。


その話はですね。
我が校始まって以来、全国でも50年に一度と言われる程の札付きの悪童をもおとなしくさせた程の話なんです。

でも、いいんですか旦那。

本当にそんな話をめったに聞くもんぢゃあありません。

そう言うとおいおいと泣き出してしまったのである。


小生もキュウリ魚君を泣かせに来たわけではないので、
まあ、まあとなだめすかしたりする結果になってしまった訳である。


どうですあなた。
あなたは知りたいですか?