2009年12月アーカイブ

正月

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昨夜からきんかん坊主の所に押しかけ、めでたいめでたいと酒を飲んだ。
いつの間にか眠りこけ、気がついたら新年である。
年齢を重ねるとまた年をとることが恨めしいものであり、
あまりめでたくもない。

本来一本道で一方通行であるはずの時間軸を
365日でまた1から始める暦を考えついた先人は
卓越した頭脳の持ち主であったのかもしれない。
いやいや、考えついたのではなく太陽をぐるぐる回る地球の天然自然の法則に従っただけであり、天然自然の法則が卓越しているのである。

今日は正月だから朝から皆で酒を飲むことにした。
まあ、理由をつけては酒を飲む飲兵衛の集まりだから仕方あるまい。
相変わらず猫は酒の席に寄りつかない。

サラリーマン時代は良かったと言うエイのヒレ君にキンカン坊主は言った。

「君はそうやってサラリーマン時代を懐かしむが、本当に当時は幸せだったのかね。
年中休む間もなく働き、やりたいこともできずに苦痛だったのではないのかね。そもそも仕事自体本当に君がやりたかった事だったのかね。それに確かに安定した収入だったかもしれないけれども実際に裕福だったのかね」

そう言われるてみるとエイのヒレ君も困ってしまった。
「確かにそうですね。決して幸せなんかぢゃなかった。毎日毎日が組織に縛られ、つまらない時間を過ごしたのかもしれません。けれども明日どうなるか分からないという恐怖はなかった。今は苦しいけれどもきっと将来は良いことがあると何となく思ってました。それに組織の中にいると何となく気が楽だった」


「解き放された自由だからこそ明日が怖い。自由を得るのは本当に強い人だけなのかもしれませんね」
キュウリ魚君はそう言う。

「人間なんて弱いものだよ。それでいいんだ。だから宗教がある。だから詩があるし、音楽もある。だから酒があるのだよ」
キンカン坊主はそう言ってグビッと酒を飲む。

「時代の流れに翻弄され、自然の驚異に怯える。それが人間さ。将来の自分と契約してどうする。今日この日こそ美しくなければならない。もっと今日に勇気を持たねばなりませんぜ」
名月君はそう言って威張っている。

正月の日差しが損にも得にもならない我々をいつになく暖かく包み込んでいた。

喰うということ

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南蛮君は鳥モツのキンカンが喰いたいと突然言い出した。
キンカン坊主と話しているうちに喰いたくなったらしい。

「ところで僕が持って来た鶏はどうしたのかね」
名月君がキンカン坊主に詰め寄った。

キンカン坊主は平然と答えた。
「ああ、あれなら喰ったよ」
「何、喰った?お前さん坊主のくせによくもそんな事できるものだ」
名月君はあきれた顔をしてみせた。

キンカン坊主は続けた。
「あれは月夜のことだった。あんまりの空腹にとうとうかの鶏を食う事を決心し、
静かに背後から近づき目にも止まらぬ早さで鶏を捕らえた」

ふん、ふん、それでと南蛮君が促す。
南蛮君は何を喰うにも南蛮をたっぷりかけるから南蛮君である。
おそらく味覚がおかしいのであろう。


「奴は一瞬ギクリとしたが、とうとう自分の運命を悟ったのかそれ以上は騒がなかった。
きっと覚悟をきめたのだろうね。その姿がんなとも涙ぐましかった」

「それを喰ったのか。この野蛮人めが」
名月君はキンカン坊主を睨む。

「そもそも君が喰おうと持参したんじゃないか。この頃は鶏の餌にも苦労する始末。猫と坊主の命の糧になってもらった次第だ」
キンカン坊主はそう言うと鼻をクンクンとならした。蓄膿の人がよくやる仕草である。

「どうだかね。そのうち猫も喰っちまうんぢゃないのか」
そう名月君が言うと猫がぎょとした顔で部屋を飛び出した。

「羽とかどうしたのですか」
南蛮君が尋ねるとキンカン坊主はこう答えた。
「なーに赤や緑色に染めて募金の羽はいらんかねと小金丸の婆にみせたら喜んで持って行ったよ」


今年も残り少ない。
なんとか今年も生き延びることができた。
さてさて、来年はどんな年になることやら。


今日は家内が留守だからカップ麺を喰っていたらシロン君夫婦が訪ねて来た。


大学病院に入院することになったが受付に必要な用紙はインターネットでダウンロードしなければならないということで、ダウンロードして欲しいというのであった。
シロン君は芸術家だがパソコンは使ってない。

最近の病院の手続きは面倒なものだと話しながらパソコンに向かった。
が、親友の一大事だからそんな事は容易い事である。

容態は大したことは無いと言うが早めの治療が肝心だと医者に勧められたらしい。
奥さんも案外元気であった。

先日突然に癌を知らされた時は驚いたがこの様子では大丈夫だろうと思った次第である。

二人はそのまま病院に向かうからということで用事を済ますと早速引き上げた。

シロン君たちは正式に籍を入れてないがどんな夫婦よりも仲がよい。
なによりも奥さんが実に献身的にシロン君に尽くすところが実に美しい。
やはり自己主張ばかりするホルモン大好き女が急増する中、このように女らしい女性をみると安心するものである。

フェミニズムに走る近世は本当に人を幸せにするのであろうか。
女が自由を勝ち得て女を捨てた現在、人類にとってあまり好ましくない結果が待っているように思えるのである。

冷たい風が吹き出した。
今夜は寒くなりそうである。
残り少なくなった石油を購入するために表に出て暫く歩いた。

冷たい風が残り少なくなった落ち葉を乾いた音を立てて掃いていく。

ふと向かい側の道端に目をやるとシロン君夫婦が居た。
おそらくタクシーを待っているのであろう。

先ほどの元気な姿はそこにはない。
これから起こりうる不吉な予感になすべもなく
呆然と立ち竦む二人はすでに枯れ果てた樹木のようであった。


七面鳥を喰う

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「君たち七面鳥を喰った事はあるかね」
名月君のこの言葉が今日のメニューの発端である。

クリスマスといえば七面鳥と誰でも答えるであろうが、
案外実際に喰った事はないはずである。
大凡チキンのモモ焼きで代用されるからである。

日本のチキンはある意味相当に不幸である。
どういう訳か七面鳥が日本に根付かなかったばかりにクリスマスに大量に喰われてしまう運命となったのである。

名月君は七面鳥のモモ肉をガブリとやりながら言う。
「西欧の文化が入り込み、本来とは違うものに影響が及ぶ。ん、これはチキンだけに限った事ではなさそうだね君」
そう促されたキュウリ魚君は
「確かにそうです。なんでもかんでも海外のいいなりはいけません。そろそろ日本人は日本人であることに誇りを持たないといけません」
と言う。

七面鳥の腹の中を探り、詰め物をほじくり出していたエイのヒレ君が話し始めた。
「この国の誇りですか。僕はそんなものとっくに失ってしまったように思います。唯々アメリカのいいなりになり、グローバル化と言っては魂を売り渡した。けれども変なプライドだけはあるから困った物です」
エイのヒレ君は小泉政権の竹中経済政策で会社を失いひどい目にあったのである。だから小泉政権に対して手厳しく続ける。
「小金丸の婆が潤うことが結局庶民の我々にも恩恵があるとしたがどうでしょうか、結局小金丸の婆は我々を益々見下すばかりでなんの恩恵もない」
エイのヒレ君は更に続ける。
「金持ちと僕たちにどれ程の差があるのでしょうか。僕なんか自慢じゃないが若い頃には24時間365日会社のために働かされた会社人間でした。やれ、クリスマスだの正月だのと彼女とデートする間などなかったものです。それが時代が変わっただの、グローバル化だのとあっさり会社は破産。ほうり出された社員はたまったものではない。ようやくこれから報われる年齢になったのにですよ。それが今ではフリーターとは何とも情けない」
そう言うと一気に酒を飲み干した。それからポイと七面鳥の骨を籠に入れるとため息とともにこう呟いた。
「小金丸の婆と僕の違いはなんだと思いますか?」

キンカン坊主が一言
「小金丸の婆はケチだ」
キュウリ魚君は少し考え込みながら
「あの婆さんは異様な細かさと執拗な執着心」
名月君も調子に乗って賛同する。
「あんなあつかましい奴はいない」

エイのヒレ君は意を得たように言う。
「そうなんです。違いはそんなところです。なにも特別に努力の差があったわけではない。頭脳の明晰さは余程キュウリ魚君の方がランクが上です。つまり我々は生きることが下手くそなんです」

「生きることが上手な人間は人の気持ちを理解できないでしょうな。踏まれて涙をながし、血を滲ませた人間でないといけない。そういうところから考えると我々は高尚な人種であるな」
名月君がそう威張ると拍手が起こった。

「そうは言ってみてもやっぱり負け犬の遠吠えでしょうな。でもね。どんな道を歩いても行き着く先は同じで死があるだけです。どんなに生きることが上手な人間であれ死を逃れることはできない。どうであれ今の自分を受け入れて有り難く生きることですぞ」
キンカン坊主はそう言うと美味そうに七面鳥にかぶりついた。

瓢箪君は瓢箪みたいな顔をしているので瓢箪君である。

そして鼻の下が異様に長い。

鼻の下が長いからやっぱり助兵衛である。


瓢箪君の話は大方猥談である。

どんなに話題のないときでも瓢箪君がいれば場が盛り上がる。


そういう意味でも猥談はすぐれた潤滑油となりうるのである。


「流石のタイガーウッズも金髪ピチピチ女にはメロメロだったようだね」

名月君がそう言うと瓢箪君がすかさず答えた。

「なんたって金髪美人だからね。どんな聖人君子だって人格が変わるってものよ。それにあんた、ほんのりと甘い蜜の香りをさせながらチラリと壇ノ浦を見せられようものならそりゃあ、あんた昇天しますぜ」

「ほほう。壇ノ浦をかね」

キンカン坊主は頬を桃色にして目を細める。


「なるほど、良い表現だ。壇ノ浦とはよくいった。あんた詩人だね」

名月君は大喜びで瓢箪君を褒める。


ぐつぐつ煮える水炊きの湯気もなんだか色めきだっているようである。

今日の酒も楽しい酒である。

例の学校のボランティアで打ち合わせでの事である。

教室は今も昔もやっぱり寒い。


長引いた打ち合わせが終わる頃はもう外も暗くなっている。

まだ5時前だが日が落ちるのは早い。

釣瓶落としとはよく言ったものである。


凍えた体を震わせながら帰宅の準備をしていると若い女の教諭が
パソコンの事を質問してきた。


学校の教諭は水族館の深海魚コーナーの、
珍獣、珍魚のような面持ちと相場は決まっている。


もともと色気を売るところではないのだから、まあそんな風で仕方ないであろう。

ところがこの若い教諭は美人である。器量も良いが、性質も上品である。

珍しい事もあるものである。

そんな教諭に質問されたら応えない方はない。

案ずることもなく問題はすんなり解決した。

早速疑問が解決した美人教諭も上機嫌である。


暗くなった廊下を歩きながらしきりにお礼を言う。

お礼を言いながら美人教諭は足を止めた。

「こっちの階段は見たくないものが出るという噂があります。
遠回りになりますが、あちらの階段から降りましょう」

そう言って反対側へ小生を誘導した。

見たくないものはやっぱり見ない方がよい。
伝統のある学校である。きっとなにか化け物が出るに違いない。

が、暗くなったとはいえまだ夕方である。
こんなに早い時間にお化けが出るものだろうか。

何となく不審に思いながらも美人教諭の後に従い職員室の前まで来た。

美人教諭はにこりと笑いながら私は別の用事を済ませますのでと丁重なお辞儀をしてからそのまま行ってしまった。


小生はそのまま職員室の板垣退助に似た校長に挨拶をして帰ろうとすると、
板垣退助が「おや、どこへ行っておられたのかね」と言う。

小生は美人の女教諭の質問に応えていたと話すと、
板垣退助は怪訝な顔をする。

「はて、当校には若い女の教諭など居ないのですが。おかしい」

そう言って不思議がる。しかも、今日は女性の教諭は集まってないと言う。

少しお疲れの様子ですなと言いながら怪訝そうにしている。

「あなたどちらから降りて来られましたかな」

板垣退助がそう聞くので、あちらからと言うと

「ほほう、そうでうすか。あちら側の階段は出るという噂がある・・・
いやはや、噂ですがね」

そう言ってにやりとしてみせた。


そのとき、冬の日の寒さとは違う悪寒が走った。



安倍川餅と税金

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キュウリ魚君が安倍川餅を持って来た。
いつかのパソコンのウイルス対策のお礼だと言う。

まあお茶でも飲みながら休んで行きなさいと座敷に上がってもらった。

早速頂いた安倍川餅をぱくつきながら学校のことなど話していると税金の話になった。
貧乏人にとって全く嫌なものである。

キュウリ魚君は臨時の教師だから薄給である。
「やれどこそこでアルバイトをしたはずだからその分を払いなさいと督促してくる」

キュウリ魚君は大層不満顔でそんな小言を言い、
安倍川餅を長く伸ばしなら食う。
そしてまた喋る。

「僕のような年収百万かそこらの人間からむさぼり取ってどうするのかと言いたい」

確かにそうである。
そして、その時の彼らの言葉は決まってこうだ。

「国民皆平等にいただいているものです。我々は公平にあたっているだけです」

そう言って威張るのである。
平等だの公平などを都合の良いように使うけしからん輩たちである。

「一人勝ちしている連中からたっぷり取り上げればいいんだ。
大体総理だって多額の脱税をしているではないですか。
僕は民主党には頑張ってもらいたいと思っているのですが、
僕ら貧乏人から巻き上げる前にまず金持ちからやりなさいよと言いたいのです」

そう言うと安倍川餅のきな粉が気管に入り込みひどい咳に苦しみだした。
そして、ぐいとお茶を飲み干した。

安倍川餅の起源は家康の時代に遡る。
安倍川の金な粉餅として家康に献上されたものらしい。
当時では高級な白砂糖を使用した高級品である。

菓子はばくばく食う物ではない。
高価な物を少し食うのが良いのである。
そうキュウリ魚君に言った途端鼻がムズムズする。

鼻の穴に蚊でも進入したかのようである。
そうして激しくクシャミをしたら
きな粉が砂金を散らした様に舞った。





今日はシロン君のお宅にお邪魔した。

小春日和とはいえ時折吹く風は身を切るように冷たい。


そんな冬の昼下がりのことである。


質素だがセンスの良い部屋は流石に芸術家の住処である。

シロン君はベートーヴェンを聴きながら寛いでいた。
生憎美人の奥さんは留守であった。


ピアノソナタ8番が静かに流れている。

卓上の一輪の赤いバラに語りかけるようでもある。


「僕はこの曲はケンプが好きなんだ。

流れるような流麗さが、爽快ぢゃないか。

あまり深刻すぎるのはいけない」

そう言って私のために紅茶を入れてくれた。

それから暫くベートーヴェン談義をして楽しんだ。


こういうくつろぎにいただく紅茶は実にうまい。


「昨日、病院に行ってきた」

シロン君は唐突に言った。

「どうやら、癌らしい」


突然の親友の告白に小生は暫く返す言葉を失った。


師走になるとなぜか坊主まで忙しいらしい。
キンカン坊主はいつも不在である。

ところがつい先日キンカン坊主と出くわした。
ひどく腹を立てている。

一体どうしたのかとね尋ねると、ガキにやられたと言う。

キンカン坊主はその時の事を再び思い出し、ひどく興奮しながらガキとのやり取りを話して聞かせた。


それは駅に向かって歩いている時であった。

道ばたの金比羅地蔵に3人の悪ガキが何かしている。

「これこれお地蔵さんに悪さをするとバチがあたりますぞ」
そう言って咎めると、悪ガキどもはキンカン坊主にこう言う。

「お坊さん、この銀チョコまんじゅうの包みを開けてごらんなさいな」
馬鹿を言うのではない。お地蔵さんのお供えではないか。
そんなことはできぬ。と答えたら、ガキはまた言う。

「このまんじゅうは腐っている。お地蔵さんに腐ったものを供えてはいけません。
どうか、包みを開けてごらんなさいな」

確かに腐ったものを差し上げるのも悪いと思い、その包みを開けると
包みの中から犬の糞が出てきた。

その糞の臭いこと、臭いこと。
この世の地獄のようだったらしい。

やられたと気づくやガキどもは
「やーい、やーい糞坊主」
「犬の糞を食べらんかい」
そう言って素早く走り去る。

流石に腹を立てたキンカン坊主は、金比羅地蔵が持つ竹竿を拝借しガキどもを追いかけ回したのである。

ガキどもは到底追いつけない所で立ち止まり、坊主の方においでおいでをする。
挙げ句の果てには尻を向けてぺんぺんしてみせる。

キンカン坊主は竹竿を振り回してガキどもを更に追いかけたという。


仕事の締切に追われながらもさっぱり手が進まない。


机の上の鉛筆立ての場所がどうも気に入らない。
少し動かしてはまたじっと見る。

やっぱり気に入らないのでまた少し動かしてみる。

そして鉛筆立てに飽いたら今度はマコロンをひとつ摘む。
マカロンではなくマコロンである。
砂糖をポロポロこぼしながら、濃い茶を飲む。

そうしたらまた鉛筆立てが気になって仕方ない。

そんな風だから仕事はさっぱり進まないのである。


結局いい加減な仕事で終わらせるのだから出世しないはずである。


大体計画的に勉強なり、仕事をやる性質なら今頃こんなつまらない仕事なんかやってはいないであろう。


こんなつまらない仕事をしながらマコロンを食う自分と出会えたのも、
暢気な性質のおかげだと思ったりして自分を慰めてみる。


けれども、こんな仕事なら小学生にだってできるに決まっている。
わざわざシステム屋さんのやることではない。
一体全体世の中おかしい。

段々腹が立ってくる。
腹が立つと、もう仕事どころではない。

またひとつマコロンを食う。

案外世の大人達はそんなどうでも良いような仕事に
わざわざ難しい顔をして取り組んでいるのかもしれない。

そうでもしなければ、あんまり自分が情けなくなるからである。


ざまあみろ。
そうに決まっている。
そんな風なことを勝手に思いながら
またマコロンをひとつ頬張った。