武蔵野日記の最近のブログ記事

シロン君とこうして紅茶を飲んだのは随分久しぶりだった。
寒い頃、癌だと聞かされてそれ以来見舞いにも行かないままシロン君は元気になったと言って退院してきた。

それでもゆっくり再会したのは今日なのだから、小生は友人としても随分薄情な人間に成り下がったものである。

病院での退屈な時間を暫く話した後シロン君は空を見ながらこんな話を始めた。

「実は入院中に素敵な女性と出会ってね」

シロン君といえば美人の奥方が居る。正式に結婚はしていないものの誰もが羨む仲なのである。そんなシロン君が他の女性に心変わりするとはにわかには信じがたいことである。

「僕はね。そんなに長くは生きていられないと思うのです。そして知り合った女性も実は長くはないという。神はなんて愚かなお遊びをするのだろうか。先の長くない二人に恋愛をさせていったいどういうつもりなのか。そんな風に僕の理性は言うのです。けれども僕の感情は、どうしても抑えられないのです」

そんな風に言うとシロン君は照れくさそうに笑ってみせる。
いつまでも子どものような表情を残した男である。

「君は詩を書かないからわからないかもしれないが、恋愛する心がなくなったら芸術家はもう駄目なのです。僕なんぞはもう死にかけているのにやっぱり恋愛して詩を残そうとしている。まったくもって困ったものです」

困るのは奥方の方であろうと美人の奥方を気遣うとシロン君も困惑して言った。

「確かにそうなのです。彼女は僕にとって欠かせない女性だ。僕も彼女を最後まで大事にするつもりでいた。でもね、病院で知り合った女も僕には欠かせない女性なんです」

それは男のエゴで女性には通用しないのだからいい加減に頭を冷やすに限ると、せめても友人としての忠告をした。

シロン君はありがとうと言ってそのまま帰って行った。

それから数日後のことである。
シロン君の奥方から知らせがあった。

それは、シロン君が或る女性と自殺したという内容であった。


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毎日ぼんやりとして鼻くそばかりほじくっていると、今日は一体何時なのか判らなくなるものである。

蝉の声を聴き、暑いと腹を立てながら蝉に石を投げつけるとおよそ1メートル程はずれた所に中る。それでも蝉は驚いて飛び出す。慌てて飛び出すと烏の餌食になる。
どうやら烏どもは蝉に味を占めたようである。蝉を追いかけては喰っているのである。
生きるのは退屈であるが大変なものである。
そんな風に損にも得にもならない生き方をしていると今日が何時なのか判らなくなるのである。暑いから季節は夏であろう位のものなのである。

それでも、周りがあまりに静かである。一体どうしたのかと家内に聞くと盆だと言う。そうしてようやく盆であることに気付く始末である。寺を持たない糞坊主であるキンカン坊主も流石に忙しいらしい。名月君も音沙汰がない。あれで結構忙しい身のようである。キューウリ魚君は夏休みをとって故郷に帰っている。退屈な時の遊び友達もこの時ばかりは縁がない。

家内に急かされて仏壇に線香をあげる。
適当な念仏をぶつぶつ唱えて、これで我が家の盆は終わりである。
いい歳をしてみてもさらさら校歌を覚える気のない小学生のようなもので
口をぱくぱくするばかりで何の意味もない。
これでは先祖も気が休まらないことであろう。

そんな風に思うのも束の間で、
暑いからとアイスキャンディーを頬張っている次第である。



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キュウリ魚君は熱心に語った。

「国立大学の理学部の予算を削減しようとしている。まったくもってとんでもないことをやるもんですよ。子ども手当とかなんとか言って、親父のパチンコ代にしかならないものをバラまいておいてそれはないよと腹がたって仕方ないのです」
キュウリ魚君の顔は本物のキュウリのようになってきた。

まあまあそんな大魔神のような顔をしないで落ち着きなさいとキンカン坊主が宥める。
二日酔いに苦しんだ猫もニャーという。

「理学部に金儲けを求める方が大体どうかしている。そんなことをしたらこの国の将来はないです。事業仕分けの対象に教育を加えてどうするのでしょうか。こんなことをする民主党の連中はちょっと頭がおかしいと思うのです」

そう言うとキュウリ魚くんは咳ごもる。
咳をする姿はどうも貧乏くさい。

「仕分けをしなければならないのは、教育にかける費用ではなく、それに群がる金儲け主義の業者を見直さなければならないのです。
所謂アカデミック版を提供する業者に対して優遇処置をとるなどもっと考えることがありそうなものなんです」

オリンピックでは金が取れず、サッカーをやっては負けてばかり、頼みの技術力を失ったこの国に何が残るのであろうか。
小泉竹中改革で中流と呼ばれる多くの人々が愛社精神や愛国心に疑問を持つようになってしまった今、本当に将来のない国に成り下がったようである。

向こうの部屋でキンカン坊主の屁が一発むなしく響いた。



久しぶりにキンカン坊主のアパートに集まってすき焼きと洒落込んだ。
いつか酔っぱらった猫も健在である。

猫は相変わらず名月君には近づかない。
いくら獣であっても一度ひどい目に遭うと以降は十分慎重になるようである。

名月君はそんな猫の恨みを知ってか知らずにか、
ねこじゃらしを使って見せるが猫は知らん顔である。

「鳩山政権も終わったね」
キンカン坊主が言うと海の藻屑君は
当たり前だと言う。
何が当たり前なのかねと聞いてみると、約束したことが出来なければ嘘つきである。
これでは丸っきり詐欺師だと言って怒る。怒ると藻屑の下が赤らんできて少々気味が悪い。

名月君はこの肉は和牛かねとキンカン坊主に問いただすと、
キンカン坊主はアメリカンに決まっていると威張る。

和牛なんぞ高くて食えるものか。

一体全体こんな風に値段をつり上げるからあんな病気が広まってひどい目に会うってもんだ。名月君がそう言うと、キュウリ魚君は口蹄疫についてくどくどと学術的な説明を始めた。

エイのヒレ君はポンと玉子を割って器に落とし、肉をからめて喰う。
「やあ、これはうまい」
そう言うと猫も近づいてくる。
そして一斉に皆の箸がすき焼き鍋を突き始めた。

部屋の中はすき焼きの匂い一色になった。

最近臭い屁が出るようになって困っている。
昨日などはこれ以上ないであろう史上最大の臭い屁が出た。
正に地獄の底の臭いというものであった。

生ゴミをかき回した上に硫黄の固まりを練り込んだような臭いである。
これには流石の本人も驚いたわけである。

一体全体そんな強烈な臭いを発するようなものを食べた記憶はない。
ならばきっと腸が腐敗しているに違いないと確信したほどである。

こんな屁を家内に当てたなら今度こそ本当に白目をむいて卒倒するに違いない。
そんな事になったらとても危険なので、
早速汚染物質を排出するに限るとトイレに駆け込んだ次第である。

あんまり臭いのだから余程覚悟をしてかかることにした。
一番確実なのは汚物排出時にそっと息を止め、
あとは処理をしてさっさとトイレから脱出するのである。

ところがである。

その処理に手間取った事と、年齢と共に呼吸を止めることができる時間が極端に短くなったことを忘れており大きく計算が狂ってしまったのである。

思わず大きく息継ぎをしてしまった時には強烈な臭いが正に浮かび上がった時だった訳である。

あまりの強烈な臭いに鼻腔が痙攣を起こしクシャミが出る。
クシャミをするとまた大きく息継ぎをする。
そんな繰り返しでわざわざ史上最悪の臭いを満喫する結果になったのである。
まったく困ったものである。

こんな風ではおいそれと電車の中で透かし屁もできやしない。
そんなことをしたらたちまち異臭事件で大騒ぎであろう。
まさか中年男の透かし屁だとは誰も思わないに違いない。

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花見の季節

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花見の席で名月君は赤鼻に言った。
「君ね、なんだその鞄は。一体全体紳士という物は持ち物には拘わらねばならん」
そう言いながら団子を食う。
赤鼻はそう言えば随分鞄を変えてないと人ごとのように応えながらやっぱり団子を食う。
団子を食ったら蜜が服に流れ落ちたので慌てて拭き取っている。鞄の話どころではない。

メジロが桜の密を吸いにやって来てすっとんきょな顔をしてみせる。
名月君の講釈に退屈してそんなメジロを楽しんでいると今度は海の藻屑君がこんな事を話し始めた。
「桜の花って奴はどうして人の気持ちを揺り動かすのかね」
キンカン坊主は甘酒を飲みながら落ち着いて答える。
「なーにそれは桜に責任があるのではない。丁度年度の変わり目に咲くからだ。幼い頃から人の節目に咲いているのだから、桜を見るといろんな心持ちを思い出すからに違いない」
「ぢゃあ、たんぽぽでも良い訳か」
すかさず名月君が切り返すとキンカン坊主は笑いながら言った。
「君ね。幼い頃にタンポポが季節の象徴として教えられたかね。いつでも桜があったのではないかね」

どうでもいいような事をあーでもない、こーでもないと講釈が続いた。
小生はやっぱりメジロの顔が面白いのでその姿ばかり追っていた。


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鼻ラッパは高級志向である。

どうして鼻ラッパかはわざわざ説明するまでもない事だが鼻がラッパのように開いているから鼻ラッパである。

今晩は鼻ラッパと帝国ホテルのバーで会った。

時々こうしてホテルで人に会うとなんだか大層な身分になった気がするから不思議である。実はさほどの出費にはならない。上手な使い方を知っておくのも紳士の心得というものである。

鼻ラッパはジントニックを頼んだ。
小生は水割りにして落ち着いた雰囲気を楽しんだ。

しばらくして鼻ラッパが耳元で囁いた。

「正月多くの議員を集めて得意な小沢を尻目に、ひそかに彼を葬り去ろうとした連中がいた」

そう言うと彼はウインクをして見せる。

「たかだか成り上がりの政治家なんぞに権力を渡せるものかと、小沢の栄華を冷たい目で見るエリート達がいた」

鼻ラッパはジントニックをじっと見つめながらエリートの真似をして語る。

「さあ、今の内にせいぜい裸の王様を演じるがよろしい。そのうち、目にものをみせてやる」

鼻ラッパの鼻は益々広がる。
しかし声のトーンは低く、囁くように言う。
「君は知っているか。彼らの本性を」

更に声のトーンを落として言う。
「僕は知っている。
彼らは民衆のことを虫けら以下だと思っているのさ。
彼らが正義の味方だとか、公正公平な神のような存在だと勝手に思っているとしたらそれはあまりに無知な誤解だね」

そう言うとピーナッツをひとつ口に放り込んだ。

「これは以前僕が特捜部から事情聴取を受けた時の事だがね、警察の調書にあきらかなミスを見つけた時に見せた彼の態度に本質を見た。
ふん、と鼻で笑い、警察の馬鹿どものする事だと冷たく見下した。
僕はその態度に彼らの本質を見たものだ」

一体君は何をやらかしたんだと聞くと鼻ラッパは別に大したことぢゃないと言ってジントニックを静かに飲み干した。

ショパンのノクターンが静かに流れている。
東京の夜景がいつになく輝いて見えていた。


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時計の犯罪

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一昔前は大抵の家には柱時計があったものである。
1時間ごとにボーンボーンボーンと律儀に鳴るあれである。

今ではずっとシンプルなものに様代わりしてしまったのではなかろうか。

そんな壁掛け時計をふっと見てみると、
今まで止まっていた秒針があわてて動き出したように見えた。
「ははあーん、さては今までサボっていたに違いない」
そんなことを思いながら今度はじっと針を追ってみる。

刻々と時間が刻まれていく。
間違いなく針は正確に動いている。

暫くして、
知らん顔をしてよそ見をする振りをして
いきなり時計の針を見たら、主人の見てないことを良い事にちゃっかり3秒程サボっていた秒針があわてて3秒分一度に動いたように見えた。

ただ残念なのは秒針の犯罪を現行犯で捕らえられなかった事である。
つまり3秒分まとめて動いたものの目にしたのは最後の1秒目のところだった訳である。

そんな風な事をしながらも間違いなく時間は過ぎていく。
時間をどう使おうと小生の勝手である。
誰に文句を言われる筋合いもない。

とはいえ、時間は公平に永遠と流れるものではない。
自分に与えられた時間は限りあるものである。
実は寸秒をも惜しまなくてはならない。

けれども時々時間の犯す犯罪を盗み見たくなるのも人情である。
ところが、どういう訳かやってはならない事をやってしまっているようで気持ちが悪い。

時の犯罪を解明したり、鏡映しの世界に入り込むことはやってはならないことのような気がするのである。





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うどん屋でうどんを食いながらのことである。

「ガムとチョコレートをいっしょに食べるとガムがドロドロに溶けてしまうんだよ」
ヨードチンキ君が密かに発見したように言うと海の藻屑君が笑った。
「そんな事小学校の遠足の時に知っていたよ。君は今までご存知なかったのかね」
ヨードチンキ君は世間では常識のことだったのかと不思議がる。
キュウリ魚君は冷静に意見を言う。
「チョコレートの油分が犯人なのです」

それを聞いたキンカン坊主はクールミントガムを噛みながら今度は海老天うどんの海老天を頬張った。
暫く口をもぐもぐさせて大声を出す。
「やあ、これはものすごい海老天でガムが無くなった。どろどろに溶けている」

キュウリ魚君は冷たい目で坊主を睨みながら吐き捨てるように言った。
「ミントと海老天喰って美味いのですか。本当にあなたはお坊さんなのですか。馬鹿にも程がある」

そんなキュウリ魚君を尻目にヨードチンキ君も坊主からガムを拝借してやっぱり海老天を頬張っている。
とうとう、海の藻屑君までも同じ事をやり始めた。

うどん屋の親父はそんな風に騒動する我々に不機嫌な顔をしている。

うどん屋に一人で入ってガムを食いながら海老天を食うと危険人物である。
ところが大の大人が寄って集って同じ事をやらかすと笑いが起こる。
おかしなものである。

ただ一人うどん屋の親父が迷惑この上ないことだけは現実なのである。



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天気が良いので鳥見に出かけた。
青い鳥のルリビタキを見たかったが残念ながら会えなかった。

今日はどこにでも居るジョウビタキを見て楽しんだ。
とはいえ、ジョウビタキも実にお洒落な鳥である。
頭部に銀色を使うなどなかなか渋い色遣いである。

ジョウビタキの名前の由来はどこにでも居るヒタキだから常ビタキかと思ったら
頭部が翁のようだから「尉」という文字をあてて「尉鶲」と呼ぶらしい。
あるいは「ヒッ、ヒッ、ヒッ」と鳴くことから「尉火炊」とも呼ばれるらしい。
しかしヒタキとはキビタキやルリビタキ、コサメビタキなどのヒタキ科に属するからヒタキなのではないだろうか。
どうもネットで名前の由来を調べるとどれも同様の内容だから誰かが最初に書いたものを大方皆で真似をして書いているだけではなかろうか。

そしてまたややこしいことにジョウビタキは実はツグミ科に属するらしい。
ジョウビタキのヒタキはヒタキ科のヒタキではなく、やっぱり火炊きのヒタキなのだろうか。
面倒くさい名前である。

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