武蔵野日記の最近のブログ記事

行き倒れを見て

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ikebukuro.jpg先日池袋の駅からサンシャインに向かって歩いていたら人が倒れていた。
50台後半から60位の男で、これはホームレスかもしれないなと確信した。
ホームレスには見えるがまだ新入りのようで、黒光りのする筋金入りの連中とはまた様子が違う。
ボロは着ているがまだ当たり前の生活に未練を残したままでいるようでもある。
およそ、その未練が祟ったのかもしれない。

デパートのショーウインドウの前でひっくり返って痙攣している。
こんな痙攣のしかたは全く漫画かドリフターズのコントそのものである。
本当にああなるものだなと感心したほどだ。

実は目撃した時はもうすでに男のところに巡査がやってきており、
お前は一体何者かとしきりに尋ねていた。
お前は一体誰だと言われてみても、痙攣するほどである。
私は実は、かくかくしかじか、こういう者でどういう訳か気分が悪くなってこうやって震えているのだ。
などと威張って言えるものでもあるまい。
なんとつまらん愚問を投げかけているのであろうか。
そんな暇があるなら例の高電圧発生装置でも取り出してきて
ニューハートの医者のごとく、周囲の人に「離れて」と言いながら
ビリビリやった方が余っ程いいに決まっている。
そう思いながらその場を立ち去った。

立ち去ったもののその男の痙攣する姿がどうも残ってしまって後始末のしようがない。
少し休もうと思って近くのコーヒーショップに逃げ込むことにした。

アイスクリームを頼むと、愛想のない店員が面倒くさそうに水を置いていった。
暫くするとガラスの器に丸いヤッコ豆腐ほどもあるアイスクリームが出された。
そのてっぺんにはレーズンが無愛想におかれている。
蠅でも留まっているのかと思わせる飾りである。
それでも仕方なく食べてみると案外美味いものだった。
そして半分も食べると流石に頭が冴えたきた。
少し気分もよくなったところで冷静に考えてみた。

先ほどの巡査も実はもうこれは駄目だなと判断したに違いない。
そうして、せめてその亡骸を引き取る相手の糸口を見つけたかったのかもしれない。
そう考えると随分手際の良い対応にも思えた。
きっと東京ではこんなことが当たり前に起こっているに違いない。
そんな風だから別段に巡査が優れている訳でも劣っている訳でもないのである。
いつもそうしているから、そうしていたのかもしれない。

一昔前だったらこういう光景を見たなら、ああは成りたくないものだと思ったに違いない。
けれども、今はそう簡単に割り切れない。
数ヶ月後には路頭に迷って街中を彷徨いながら
同じように倒れているかもしれない。

デパートの前に来たら突然頭の中がぐるぐる回り出して倒れてしまう。
そうして気づいたらやっぱり巡査が居てお前は一体何者だと尋ねられているかもしれない。
そうこうしている中にとうとう死んでしまう。
そんなことがあっても全く不思議ではない。

街中で誰に看取られるわけでもなくボロのようになって死ぬ恐怖。

しかし、死というものに方法などない。
死ぬ時はいつでも孤独に死ななければならない。
街中で巡査にお前は何者かと言われながら死ぬのも、
大勢の親族や仲間に囲まれて死ぬのも同じである。
あるいはかえって病苦に苦しみ続けて死ぬより余っ程気楽かもしれない。

人生の目的とか難しい顔をして考えてみてもどうせ碌なアイデアも出てきやしない。

我々の人生の行き着く先は死である。
母親の子宮からポンと生まれ落ちたときから、死というゴールに向かって歩き続けているだけである。

どんなに早く走ってみても、どんなに逃げ惑ってみても、どんなに学問をしても
どんなに人を欺いても、そしてどんなに立派なことをしてみせても効果はない。

一歩一歩物理学の法則に従って死に近づいているだけである。

ゴールが死なら死ぬまでの間にせいぜいやりたいことをやっておくことであろう。

あるいは天然自然の法則が考え出した最も優れた延命方法、
自分の遺伝子を残すことである。
せめて遺伝子だけでも生き伸びさせるためにも子づくりは案外大切なことなのかもしれない。

色々難しいことをいうよりも、体の指示に従って勝手に異性に惚れて、
また勝手に体の指示に従って肉体関係を持つ。
そうすると勝手に子どもが出来てくるようになっている。
特段学問など必要もない。
これくらいのことなら学校で鼻糞をほじくっていてもなんとかなるだろう。
子どもができればなんだか可愛くなるだろうし、
怠け者の庄助さんだってその子のために働く気分にもなるかもしれない。

子作りするだけで、遺伝子を生き伸びさせることができるのであるから、
本能に従っているのが案外気楽なようである。
そうして、これが一番幸せで全うな生き方なのかもしれない。

sy_040.jpg
ある知り合いの婆さんからケーキを貰ってきた。
チョコレートで包まれたもので天辺に気取った砂糖菓子がひとつ清まして置いてある。
銀紙に丁寧に包まれたチョコレートケーキは実に気品に満ちている。
しかし、困ったのはたったの一つしかないという事だ。

なにしろアライグマもケーキには目がない。
一体全体どうしたものかと思案したあげくに、ここはひとつゲーム理論に従って
半分づつ切り分けて戴くことにした。

切り分けるのはアライグマが担当である。
選ぶのは自分の役目である。
ゲームの理論に従えば自分は少しでも大きい方を取ろうとする。
そうなるとアライグマの取り分は減る訳だから奴は出来るだけ等分に切り分けるように努力する。
結果ケーキは限りなく等分に分けられ仲違いなど起こらぬとい大層な理屈である。

ところがアライグマはどういう了見かなんの考えもなく適当に切ってみせる。
しかも大きい方に砂糖菓子が清ましている。

こうなったら大きい方を取りたくなるのが人情というものである。
すかさず大きいケーキを奪い取ったらアライグマは散々文句を言い始めた。

大体、あなたは思いやりというものが微塵も持たない冷酷な人間だとか、
いつもぼんやりとして鼻毛ばかり抜くものだから掃除が大変だとか、
こんなに貧乏をさせられても耐えてみせているのにだとか言う。
そして、仕舞いには涙をポロポロ流し始める。

そうまでチョコレートケーキに未練を持たれては適わない。
仕方ないので砂糖菓子をツイと取り上げて下のケーキを入れ替えてやった。
これで文句あるまいと威張ると、
その砂糖菓子が欲しいのだとやっぱり泣く。

とうとう砂糖菓子まで取られてしまった。

一体全体何がゲーム理論だ。
まんまとしてやられたではないか。
こんなことだからいつまでたっても人類は戦争を止められないのだと心底思った次第である。

最近細君の事を疑っている。
実はアライグマの化身ではないかと思っている。

だから細君のことをこっそりとアライグマと呼んでいる。
疑う理由その1
なんでも洗う。かっぱえびせんの袋も、牛乳パックも、シロクマアイスのカップも、玉子も、新品の服も、革靴も・・・。すべて洗ってから開封するからだ。
疑う理由その2
試しに肋骨の本数を数えたら片側12本もあった。
疑う理由その3
今時携帯電話の使い方がわからない。
疑う理由その4
自動販売機のカップ入りのコーヒーの購入方法を真面目に聞いてきたから。
疑う理由その5
病気をしても3日寝込めば完治する恐ろしいほどの治癒力。医者いらずだ。
疑う理由その6
めずらしい野鳥を発見することが異常に早い。
疑う理由その7
蝉を素手で取ってきて「ほれっ」と言って見せる事。バルタン星人のような蝉がギギギというのが不気味だった。

昔アライグマを助けた覚えは無いのだが・・・

グツグツ煮える鍋から醤油の匂いが立ち上がる。
牛鍋といっても牛などわずかでこんにゃくばかりである。

久々に集まった退屈な連中は牛鍋をつつきながらどうでも良い事を喋っている。

名月君はこんにゃくを摘みながら言った。
「放射能汚染で和牛が安く買えるというから近くのスーパーに行ってみたらとても買えるような値段ではなかった。この鍋も海外のすね肉ばかりだ。一体全体我々下層に位置する人間にとって和牛がどうなろうとあんまり関係ない。ところがその和牛を国が買い上げて税金に転嫁するというのだから嫌になってしまう。しかも消費税にだぜ。われわれの手にすることのできない高級品を援助するために税金を払うのはおかしいとは思わないか」
名月君はようやく肉を見つけて食っても固くて食えやしないとぶつぶつ続けた。

キュウリ魚君はクイと酒を飲んでこう言った。
「まあ、それでも畜産業者は放射能の被害者だしね」
そうするとエイのひれ君が応えた。
「災害はいつ、どんな形でやってくるかわからないものさ。僕なんぞは竹中の政策でこの場所に追い落とされた一人だし、ヨネキンだって代々受け継いだ店を大型スーパーの出店で閉めざるを得なかった。その大型スーパーも倒産して街自体ゴーストタウン化している。まったく津波ならあきらめもつくかもしれないがね。ヨネキンは誰からも援助されることもなくあわれに死んでいった」
ヨネキンは米沢さんのことで金玉がひとつしかないのでヨネキンと呼ばれていた。

牛鍋は貧乏人達をあざ笑うようにグツグツいいながら煮えたぎっている。

あまりに無力な

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福島の原発事故は一向に収まる気配がない。

名月君はちびちび酒を飲みながら言う。
「まったくもって神の領域の火を使いながら、その消し方も心得ておらずにおろおろするばかりだな。
これでは技術先進国の名が廃るってもんだ。
大体だね、原子力なんて最新のテクノロジーだぜ。
ところがやっている事はというとまるで飯事だ。
ホースで水をかけて、水が溜まったので今度は一生懸命かき出すばかりだ。
それも全部人海戦術だから驚く。
こんな幼稚なことしかできないくせに、一体よくもまあ、神の領域の火に手をつけたものだ」

海の藻屑君も同調して続けた。
「海外に助けてと言ったり、ロボットを提供してもらったり。
ええ、ここまできて見栄など張っている場合じゃあない。
でもね、僕などは日本はロボット先進国だとつい先頃まで信じて疑わなかったものですよ。一体何が先進だったのだろうか。使えるものは何もありゃしない。
あの2足歩行する、なんとかいうロボットなど一体何のために作ったのだろうか」

エイのひれ君はいい加減に酒が回ってしまって顔がトマトのように赤い。
気の毒なほど顔を赤くしたエイのひれ君は少し苦しそうに言った。
「天然自然の力には遠く及ばないということですよ。
人間はもっと本来の姿に戻らなければならないという警鐘です」

「そうかもしれないが、天然自然の怒りはあまりに無差別だね」
澄まし顔で名月君はキンカン坊主に向かって言った。
「こんなときでも竹中なんぞは平然としてTPPに対応できる新しい農業政策をなどと言っていた。こんな奴こそ津波に飲まれて欲しいものだ」
エイのひれ君は竹中嫌いだからそんなことを言った。そして「えいくそ!」と怒鳴ったなり寝込んでしまった。

いつの間にか世の中の底辺に追いやられ、それでも故郷を愛し、さんざんいいように使われてもやっぱり人間を愛し続ける。
こうやって放射線を浴びた料理をつまみながら役にたたないことばかり言っては、怒り、悲しみ、そして失笑するよりほかには見当たらなかった。

かつて二日酔いになった猫も、放射性物質入りの水を飲まされながらも案外臆する事もなくただ毎日を彼なりに一生懸命生きているようである。


花見どころでは

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今頃は本来なら花見で飲んだくれているところだが、流石の飲んべえ達も大震災のあとにはなす術が無い。
仕方ないのでキンカン坊主のアパートに集まってやっぱり酒を飲んでいる。
放射能を浴びたかもしれない野菜をどこからか安く手に入れて、安い肉と煮込んだものを喰いながらどうでもいい事を話していたらキュウリ魚君が急に真面目になって言った。
「昨日電車に乗ったら二十歳くらいの男が目の前に座ったのです。彼は座るなりおもむろにパンを喰い始めた。そうしてこの次にはペットボトルの水をゴクゴク飲むのです」

キュウリ魚君の顔は険しい。

「放射能の影響で乳児用のペットボトルの水が無いと騒いでいるときにですよ。第一あの図体なら蹴飛ばしても平気な若者がなんでわざわざペットボトルの水を手に入れて飲んでいるのか、考えただけでも腹がたってきました」

「まったくもってそうだ」

今度は海の藻くず君が怒りだした。

「今日テレビで水道の水は安全だと言う学者にペットの水はどうしたらいいのかと問いただす、若手芸人がいた。まったくもって悲しくなってしまった。
彼らはいかにも神妙な顔で被災者に呼びかけをしたりするけれど、けっきょくはその程度なんだよ」

「確かにそうだね。川島なお美のブログには犬用の水の心配がつづられている。
一生懸命働いて生きていかねばならない平民の未来ある命は彼女達のペットにも劣る訳だ。きっと多くの水をペット様のために買いあさっていることだろうよ」
名月君はいつか二日酔いにさせた猫に水道水を舐めさながら言った。

二日酔いになった猫もどうやら名月君と和解したらしく、水を飲み終わると名月君の足に寄り添ってニャーと言ってみせる。

「どうしてこうも世の中無情なのですか」
キュウリ魚君が言うとキンカン坊主は知るもんかと、およそ坊主らしからぬことを言って小便に立った。


シロン君の手紙

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死んだはずのシロン君から手紙が届いたから驚いた。
手紙にはこんな内容が書かれていた。


僕が死んだことで君達は随分驚いた事だろうと思う。
しかし、そんなに驚くことはない。
僕は近々死ぬのだから、ちょっとばかりそれが早まったばかりだ。
だから、とうとう死んだと思ってくれればよいだろう。

けれどもその経緯は説明しておく必要がありそうだ。
なぜなら、家内に詫びなければならないからだ。
僕は本当に身勝手な男だ。
そして家内には詫びても詫びても詫びきれない思いがある。
どうか、君達皆で家内を助けてやってほしい。
勝手なお願いであるが、なんとか頼む。

僕はあの女と恋愛をした。
恋愛をするのに理由など必要ないものであることは君達だって知ってのとおりだ。

あの女はいつか僕にこう言った。
「私もうじき死にます。あなたいっしょに死んでもらえますか」
そう言った女は実に美しかった。
少しはにかみながらもじっと見つめる目には涙が溜まっていた。
僕はあるいはその美しさと心中を決めたのかもしれない。

僕はじき死ぬ身だし、
一層のことならこの美しさと心中したいと思った。
恋愛の美しい瞬間を僕は永遠にすることを決めたわけだ。

勿論家内のことは十分考えた末のことだ。
家内とは生きるための連れ合いだった。
けれども今度の女とは永遠の恋愛だったのかもしれない。
命がけの恋愛というものは
想像以上に美しいものだった。

馬鹿な男だと責めないで欲しい。
そういう生き方しかできなかった男をただ哀れんでくれたまえ。
家内のことは本当に頼んだからよろしくお願いする。

それでは達者で。


僕はですね。日本といえば世界でも立派な文明国家だと信じていたんです。
海の藻屑君が悲しい顔をして言った。

ところがですね。
日本を代表する大新聞にこんな見出しが躍るとは正に狐に摘まれたようです。

「大阪市の最高齢152歳 戸籍上120歳以上5125人」
「今度は文久元年生まれ149歳・・・」

江戸時代生まれの人がまだ生きているというのでしょうか。
しかも120歳以上がなんと五千人も大阪市に住んでいるなんて。

そんなふざけた内容が記事になるなんてもう信じられないです。

「日本ってこんなにふざけた国だったのでしょうか。
なんだかむなしくなってしまいます」

海の藻屑君の言葉に名月君が言った。
「世直しが必要だね。駄目だ駄目だ。どうしてこんな世の中になってしまったのであろうか」
そう言いながら猫に氷をひとつ与えると、
猫がニャーと鳴いて氷にじゃれつき始めた。


かき氷

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キンカン坊主のアパートは猛烈に暑い。
エアコンはほとんど壊れているから役にたたないのである。
埃だらけの扇風機をフル回転させながら暑い、暑いと言う。
そんな風だから夏場はあまり行きたくない所なのである。

ところが突然のシロン君の他界の事もあり皆で集まった次第である。
名月君は暑いと言って腹を立てて、猫に八つ当たりする。
キュウリ魚君が制止するが、名月君はやっぱり腹を立てて猫にあたる。

流石にこれでは身が持たないとキンカン坊主がかき氷をごちそうすることになった。
昔どこの家庭にもあったいい加減な手動のかき氷機でかき氷を作るものだから、
すぐに溶け出してべちゃべちゃのかき氷である。
それでもこの暑さの中では有り難い。
いかにも人工的な赤い蜜の味に満面の笑みを浮かべながら喰う。

炎天下の冷房のきかない部屋で、人様の役にはたってないに違いない男達が集まり故人を偲んでいる。
暑い、暑いと言いながらも、何の徳にもならない事を話ながらもやっぱり集まる。
常日頃は全く持って薄情な連中ではあるがやっぱりシロン君を偲ばずにはおれなかったのである。


シロン君とこうして紅茶を飲んだのは随分久しぶりだった。
寒い頃、癌だと聞かされてそれ以来見舞いにも行かないままシロン君は元気になったと言って退院してきた。

それでもゆっくり再会したのはこの時なのだから、小生は友人としても随分薄情な人間に成り下がったものである。

病院での退屈な時間を暫く話した後シロン君は空を見ながらこんな話を始めた。

「実は入院中に素敵な女性と出会ってね」

シロン君といえば美人の奥方が居る。正式に結婚はしていないものの誰もが羨む仲なのである。そんなシロン君が他の女性に心変わりするとはにわかには信じがたいことである。

「僕はね。そんなに長くは生きていられないと思うのです。そして知り合った女性も実は長くはないという。神はなんて愚かなお遊びをするのだろうか。先の長くない二人に恋愛をさせていったいどういうつもりなのか。そんな風に僕の理性は言うのです。けれども僕の感情は、どうしても抑えられないのです」

そんな風に言うとシロン君は照れくさそうに笑ってみせる。
いつまでも子どものような表情を残した男である。

「君は詩を書かないからわからないかもしれないが、恋愛する心がなくなったら芸術家はもう駄目なのです。僕なんぞはもう死にかけているのにやっぱり恋愛して詩を残そうとしている。まったくもって困ったものです」

困るのは奥方の方であろうと美人の奥方を気遣うとシロン君も困惑して言った。

「確かにそうなのです。彼女は僕にとって欠かせない女性だ。僕も彼女を最後まで大事にするつもりでいた。でもね、病院で知り合った女も僕には欠かせない女性なんです」

それは男のエゴで女性には通用しないのだからいい加減に頭を冷やすに限ると、せめても友人としての忠告をした。

シロン君はありがとうと言ってそのまま帰って行った。

それから数日後のことである。
シロン君の奥方から知らせがあった。

それは、シロン君が或る女性と自殺したという内容であった。


毎日ぼんやりとして鼻くそばかりほじくっていると、今日は一体何時なのか判らなくなるものである。

蝉の声を聴き、暑いと腹を立てながら蝉に石を投げつけるとおよそ1メートル程はずれた所に中る。それでも蝉は驚いて飛び出す。慌てて飛び出すと烏の餌食になる。
どうやら烏どもは蝉に味を占めたようである。蝉を追いかけては喰っているのである。
生きるのは退屈であるが大変なものである。
そんな風に損にも得にもならない生き方をしていると今日が何時なのか判らなくなるのである。暑いから季節は夏であろう位のものなのである。

それでも、周りがあまりに静かである。一体どうしたのかと家内に聞くと盆だと言う。そうしてようやく盆であることに気付く始末である。寺を持たない糞坊主であるキンカン坊主も流石に忙しいらしい。名月君も音沙汰がない。あれで結構忙しい身のようである。キューウリ魚君は夏休みをとって故郷に帰っている。退屈な時の遊び友達もこの時ばかりは縁がない。

家内に急かされて仏壇に線香をあげる。
適当な念仏をぶつぶつ唱えて、これで我が家の盆は終わりである。
いい歳をしてみてもさらさら校歌を覚える気のない小学生のようなもので
口をぱくぱくするばかりで何の意味もない。
これでは先祖も気が休まらないことであろう。

そんな風に思うのも束の間で、
暑いからとアイスキャンディーを頬張っている次第である。

久しぶりにキンカン坊主のアパートに集まってすき焼きと洒落込んだ。
いつか酔っぱらった猫も健在である。

猫は相変わらず名月君には近づかない。
いくら獣であっても一度ひどい目に遭うと以降は十分慎重になるようである。

名月君はそんな猫の恨みを知ってか知らずにか、
ねこじゃらしを使って見せるが猫は知らん顔である。

「鳩山政権も終わったね」
キンカン坊主が言うと海の藻屑君は
当たり前だと言う。
何が当たり前なのかねと聞いてみると、約束したことが出来なければ嘘つきである。
これでは丸っきり詐欺師だと言って怒る。怒ると藻屑の下が赤らんできて少々気味が悪い。

名月君はこの肉は和牛かねとキンカン坊主に問いただすと、
キンカン坊主はアメリカンに決まっていると威張る。

和牛なんぞ高くて食えるものか。

一体全体こんな風に値段をつり上げるからあんな病気が広まってひどい目に会うってもんだ。名月君がそう言うと、キュウリ魚君は口蹄疫についてくどくどと学術的な説明を始めた。

エイのヒレ君はポンと玉子を割って器に落とし、肉をからめて喰う。
「やあ、これはうまい」
そう言うと猫も近づいてくる。
そして一斉に皆の箸がすき焼き鍋を突き始めた。

部屋の中はすき焼きの匂い一色になった。

花見の季節

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花見の席で名月君は赤鼻に言った。
「君ね、なんだその鞄は。一体全体紳士という物は持ち物には拘わらねばならん」
そう言いながら団子を食う。
赤鼻はそう言えば随分鞄を変えてないと人ごとのように応えながらやっぱり団子を食う。
団子を食ったら蜜が服に流れ落ちたので慌てて拭き取っている。鞄の話どころではない。

メジロが桜の密を吸いにやって来てすっとんきょな顔をしてみせる。
名月君の講釈に退屈してそんなメジロを楽しんでいると今度は海の藻屑君がこんな事を話し始めた。
「桜の花って奴はどうして人の気持ちを揺り動かすのかね」
キンカン坊主は甘酒を飲みながら落ち着いて答える。
「なーにそれは桜に責任があるのではない。丁度年度の変わり目に咲くからだ。幼い頃から人の節目に咲いているのだから、桜を見るといろんな心持ちを思い出すからに違いない」
「ぢゃあ、たんぽぽでも良い訳か」
すかさず名月君が切り返すとキンカン坊主は笑いながら言った。
「君ね。幼い頃にタンポポが季節の象徴として教えられたかね。いつでも桜があったのではないかね」

どうでもいいような事をあーでもない、こーでもないと講釈が続いた。
小生はやっぱりメジロの顔が面白いのでその姿ばかり追っていた。

時計の犯罪

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一昔前は大抵の家には柱時計があったものである。
1時間ごとにボーンボーンボーンと律儀に鳴るあれである。

今ではずっとシンプルなものに様代わりしてしまったのではなかろうか。

そんな壁掛け時計をふっと見てみると、
今まで止まっていた秒針があわてて動き出したように見えた。
「ははあーん、さては今までサボっていたに違いない」
そんなことを思いながら今度はじっと針を追ってみる。

刻々と時間が刻まれていく。
間違いなく針は正確に動いている。

暫くして、
知らん顔をしてよそ見をする振りをして
いきなり時計の針を見たら、主人の見てないことを良い事にちゃっかり3秒程サボっていた秒針があわてて3秒分一度に動いたように見えた。

ただ残念なのは秒針の犯罪を現行犯で捕らえられなかった事である。
つまり3秒分まとめて動いたものの目にしたのは最後の1秒目のところだった訳である。

そんな風な事をしながらも間違いなく時間は過ぎていく。
時間をどう使おうと小生の勝手である。
誰に文句を言われる筋合いもない。

とはいえ、時間は公平に永遠と流れるものではない。
自分に与えられた時間は限りあるものである。
実は寸秒をも惜しまなくてはならない。

けれども時々時間の犯す犯罪を盗み見たくなるのも人情である。
ところが、どういう訳かやってはならない事をやってしまっているようで気持ちが悪い。

時の犯罪を解明したり、鏡映しの世界に入り込むことはやってはならないことのような気がするのである。

うどん屋でうどんを食いながらのことである。

「ガムとチョコレートをいっしょに食べるとガムがドロドロに溶けてしまうんだよ」
ヨードチンキ君が密かに発見したように言うと海の藻屑君が笑った。
「そんな事小学校の遠足の時に知っていたよ。君は今までご存知なかったのかね」
ヨードチンキ君は世間では常識のことだったのかと不思議がる。
キュウリ魚君は冷静に意見を言う。
「チョコレートの油分が犯人なのです」

それを聞いたキンカン坊主はクールミントガムを噛みながら今度は海老天うどんの海老天を頬張った。
暫く口をもぐもぐさせて大声を出す。
「やあ、これはものすごい海老天でガムが無くなった。どろどろに溶けている」

キュウリ魚君は冷たい目で坊主を睨みながら吐き捨てるように言った。
「ミントと海老天喰って美味いのですか。本当にあなたはお坊さんなのですか。馬鹿にも程がある」

そんなキュウリ魚君を尻目にヨードチンキ君も坊主からガムを拝借してやっぱり海老天を頬張っている。
とうとう、海の藻屑君までも同じ事をやり始めた。

うどん屋の親父はそんな風に騒動する我々に不機嫌な顔をしている。

うどん屋に一人で入ってガムを食いながら海老天を食うと危険人物である。
ところが大の大人が寄って集って同じ事をやらかすと笑いが起こる。
おかしなものである。

ただ一人うどん屋の親父が迷惑この上ないことだけは現実なのである。

ぼんやりと間抜け顔をしながらクリームチョコレートを舐めている。
銀色の包みがきれいなチョコレートである。
時々緑色に輝くものとか赤く輝くものもある。

金属色に輝くとなんだか心が躍ってくるのは何故だろうか。
おそらく動物的な感覚なのだろうとなんとなく思ったりしながら
チョコレートを囓る。
囓ると白いクリームが出てくる。
異常に甘い。
甘いから薄い紅茶で口を濯ぐ。
そうしてまた一つ口に放り込む。
今度はクリームにコーティングしたようなチョコレートを口の中で溶かす。
チョコレートが溶けるとまた甘いクリームの味がする。
仕舞いには口の中がドロドロしてくる。
気持ち悪いからまた薄い紅茶を飲む。

そんな風なことをぼんやりと繰り返していると流石に頭が痛くなってくる。

テレビをつけたら女性のアナウンサーが得意になって小沢批判をしている。
こんな連中にまで批判されるようになったらもうお仕舞いだなと思い早々にテレビを消した。

またひとつクリームチョコレートを口に放り込んだら、今度は虫歯が痛みだした。

無駄に車検代を払うくらいなら虫歯の治療もできるのにと考えたら
こんな国に生きていることが無性に馬鹿馬鹿しくなってきた。

そういえばアメリカまでの飛行機に乗ると機内でどうしてあんなに屁がでるのだろうか。きっと気圧の仕業だろうが、それにしても腹が張って仕方なくなるのは一体小生だけだろうかと暫く考えていると夜も更けてきた。

さあ寝よう。

DSC_0007.jpg

天気が良いので鳥見に出かけた。
青い鳥のルリビタキを見たかったが残念ながら会えなかった。

今日はどこにでも居るジョウビタキを見て楽しんだ。
とはいえ、ジョウビタキも実にお洒落な鳥である。
頭部に銀色を使うなどなかなか渋い色遣いである。

ジョウビタキの名前の由来はどこにでも居るヒタキだから常ビタキかと思ったら
頭部が翁のようだから「尉」という文字をあてて「尉鶲」と呼ぶらしい。
あるいは「ヒッ、ヒッ、ヒッ」と鳴くことから「尉火炊」とも呼ばれるらしい。
しかしヒタキとはキビタキやルリビタキ、コサメビタキなどのヒタキ科に属するからヒタキなのではないだろうか。
どうもネットで名前の由来を調べるとどれも同様の内容だから誰かが最初に書いたものを大方皆で真似をして書いているだけではなかろうか。

そしてまたややこしいことにジョウビタキは実はツグミ科に属するらしい。
ジョウビタキのヒタキはヒタキ科のヒタキではなく、やっぱり火炊きのヒタキなのだろうか。
面倒くさい名前である。

百舌のはやにえ

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今日は寒い。5センチもありそうな霜柱が見事である。

よりによって朝から学校でパソコンの作業である。
北向きの部屋だから凍えるかと思うほど寒かった。

板垣退助似の校長は留守である。
熊ゲラのような顔をした教頭が今日は給食を召し上がりなさいと勧めてくれたが、
メニューは春雨スープだと聞いて丁重にお断りした。
子供の頃の犬の食器のような器に入れられた冷めた春雨スープの不味さは格別だったからである。今もこのメニューが残っているとは春雨スープも執念深いものである。
相変わらず小学生を苦悩させていることであろう。

あんまり寒いものだから早々に引き上げることにした。
帰ろうとすると熊ゲラの教頭は一枚の写真を見せてくれた。

百舌のはやにえでトカゲのミイラが校庭の梅の枝に突き刺さっているものであった。
今時はやにえとは百舌も古風な事をやらかすもんですなと言うと、熊ゲラの教頭はキョトンとしていた。
これで赤い帽子を被れば熊ゲラそのものである。

家に戻ったら早速アラジンのストーブに火を入れ、青々と炎が立つとスルメを焼くことにした。宝焼酎を飲みながらスルメの足をしゃぶると昼間熊ゲラの教頭に見せられた百舌のはやにえを思い出した。
あのミイラになったトカゲもきっとこんな味がするのであろうか。百舌の奴なかなかの食通らしいなどとどうでもいいことを考えながらチビリチビリとやり始めた。

やれ政治がどうだとかマスコミがどうしたとか憂いてみても、小生など所詮ははじき出されたカスのような人間である。どうせ残り少ない人生である。今後のこの国の行方などどうでも良いことだと思うに至った。馬鹿馬鹿しい。

今度あの学校に行ったらはやにえのあった梅の枝にスルメの足をぶら下げてみようと思う。百舌の奴きっと驚くに違いない。さてスルメを喰うか、やっぱりトカゲを喰うか、こいつは見物である。そうして梅の枝にぶら下がったスルメを見つけ出した目ざとい小学生がスルメが生えたと言って驚く様も面白いに違いない。

蜜柑

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今年は蜜柑が安い。
昔ながらの蜜柑箱(10kg)が千円くらいで買える。
だから安心して蜜柑をぱくついているのである。

箱買いすると安いが時々腐った蜜柑が混じっている。
そのまま捨てるのは勿体ないのできれいに剥いて安アパートのベランダに置いておくと
鳥が来て食べていく。
その様をじっと見ていると時間を忘れるのである。

ヒヨドリがきてあたりを伺いながらもしきりに啄み、
果汁で満たされるとどこかへ消えていく。

今度はメジロが来てふざけた顔で果汁を吸う。
メジロは一口二口果汁を吸うとすぐにどこかへ飛び去る。

四十雀もしきりに行き来する。

嵐山渓谷に行けばルリビタキに会えるかもしれないなどと
鳥見の事などもぼんやりと思ってみる。

腐った蜜柑ひとつで鳥たちと遊ぶ時間はくだらないテレビを見るよりも余程優雅な一時である。

本来の時間を取り戻した一時でもあった。

正月

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昨夜からきんかん坊主の所に押しかけ、めでたいめでたいと酒を飲んだ。
いつの間にか眠りこけ、気がついたら新年である。
年齢を重ねるとまた年をとることが恨めしいものであり、
あまりめでたくもない。

本来一本道で一方通行であるはずの時間軸を
365日でまた1から始める暦を考えついた先人は
卓越した頭脳の持ち主であったのかもしれない。
いやいや、考えついたのではなく太陽をぐるぐる回る地球の天然自然の法則に従っただけであり、天然自然の法則が卓越しているのである。

今日は正月だから朝から皆で酒を飲むことにした。
まあ、理由をつけては酒を飲む飲兵衛の集まりだから仕方あるまい。
相変わらず猫は酒の席に寄りつかない。

サラリーマン時代は良かったと言うエイのヒレ君にキンカン坊主は言った。

「君はそうやってサラリーマン時代を懐かしむが、本当に当時は幸せだったのかね。
年中休む間もなく働き、やりたいこともできずに苦痛だったのではないのかね。そもそも仕事自体本当に君がやりたかった事だったのかね。それに確かに安定した収入だったかもしれないけれども実際に裕福だったのかね」

そう言われるてみるとエイのヒレ君も困ってしまった。
「確かにそうですね。決して幸せなんかぢゃなかった。毎日毎日が組織に縛られ、つまらない時間を過ごしたのかもしれません。けれども明日どうなるか分からないという恐怖はなかった。今は苦しいけれどもきっと将来は良いことがあると何となく思ってました。それに組織の中にいると何となく気が楽だった」


「解き放された自由だからこそ明日が怖い。自由を得るのは本当に強い人だけなのかもしれませんね」
キュウリ魚君はそう言う。

「人間なんて弱いものだよ。それでいいんだ。だから宗教がある。だから詩があるし、音楽もある。だから酒があるのだよ」
キンカン坊主はそう言ってグビッと酒を飲む。

「時代の流れに翻弄され、自然の驚異に怯える。それが人間さ。将来の自分と契約してどうする。今日この日こそ美しくなければならない。もっと今日に勇気を持たねばなりませんぜ」
名月君はそう言って威張っている。

正月の日差しが損にも得にもならない我々をいつになく暖かく包み込んでいた。

喰うということ

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南蛮君は鳥モツのキンカンが喰いたいと突然言い出した。
キンカン坊主と話しているうちに喰いたくなったらしい。

「ところで僕が持って来た鶏はどうしたのかね」
名月君がキンカン坊主に詰め寄った。

キンカン坊主は平然と答えた。
「ああ、あれなら喰ったよ」
「何、喰った?お前さん坊主のくせによくもそんな事できるものだ」
名月君はあきれた顔をしてみせた。

キンカン坊主は続けた。
「あれは月夜のことだった。あんまりの空腹にとうとうかの鶏を食う事を決心し、
静かに背後から近づき目にも止まらぬ早さで鶏を捕らえた」

ふん、ふん、それでと南蛮君が促す。
南蛮君は何を喰うにも南蛮をたっぷりかけるから南蛮君である。
おそらく味覚がおかしいのであろう。


「奴は一瞬ギクリとしたが、とうとう自分の運命を悟ったのかそれ以上は騒がなかった。
きっと覚悟をきめたのだろうね。その姿がんなとも涙ぐましかった」

「それを喰ったのか。この野蛮人めが」
名月君はキンカン坊主を睨む。

「そもそも君が喰おうと持参したんじゃないか。この頃は鶏の餌にも苦労する始末。猫と坊主の命の糧になってもらった次第だ」
キンカン坊主はそう言うと鼻をクンクンとならした。蓄膿の人がよくやる仕草である。

「どうだかね。そのうち猫も喰っちまうんぢゃないのか」
そう名月君が言うと猫がぎょとした顔で部屋を飛び出した。

「羽とかどうしたのですか」
南蛮君が尋ねるとキンカン坊主はこう答えた。
「なーに赤や緑色に染めて募金の羽はいらんかねと小金丸の婆にみせたら喜んで持って行ったよ」


今年も残り少ない。
なんとか今年も生き延びることができた。
さてさて、来年はどんな年になることやら。


今日は家内が留守だからカップ麺を喰っていたらシロン君夫婦が訪ねて来た。


大学病院に入院することになったが受付に必要な用紙はインターネットでダウンロードしなければならないということで、ダウンロードして欲しいというのであった。
シロン君は芸術家だがパソコンは使ってない。

最近の病院の手続きは面倒なものだと話しながらパソコンに向かった。
が、親友の一大事だからそんな事は容易い事である。

容態は大したことは無いと言うが早めの治療が肝心だと医者に勧められたらしい。
奥さんも案外元気であった。

先日突然に癌を知らされた時は驚いたがこの様子では大丈夫だろうと思った次第である。

二人はそのまま病院に向かうからということで用事を済ますと早速引き上げた。

シロン君たちは正式に籍を入れてないがどんな夫婦よりも仲がよい。
なによりも奥さんが実に献身的にシロン君に尽くすところが実に美しい。
やはり自己主張ばかりするホルモン大好き女が急増する中、このように女らしい女性をみると安心するものである。

フェミニズムに走る近世は本当に人を幸せにするのであろうか。
女が自由を勝ち得て女を捨てた現在、人類にとってあまり好ましくない結果が待っているように思えるのである。

冷たい風が吹き出した。
今夜は寒くなりそうである。
残り少なくなった石油を購入するために表に出て暫く歩いた。

冷たい風が残り少なくなった落ち葉を乾いた音を立てて掃いていく。

ふと向かい側の道端に目をやるとシロン君夫婦が居た。
おそらくタクシーを待っているのであろう。

先ほどの元気な姿はそこにはない。
これから起こりうる不吉な予感になすべもなく
呆然と立ち竦む二人はすでに枯れ果てた樹木のようであった。


七面鳥を喰う

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「君たち七面鳥を喰った事はあるかね」
名月君のこの言葉が今日のメニューの発端である。

クリスマスといえば七面鳥と誰でも答えるであろうが、
案外実際に喰った事はないはずである。
大凡チキンのモモ焼きで代用されるからである。

日本のチキンはある意味相当に不幸である。
どういう訳か七面鳥が日本に根付かなかったばかりにクリスマスに大量に喰われてしまう運命となったのである。

名月君は七面鳥のモモ肉をガブリとやりながら言う。
「西欧の文化が入り込み、本来とは違うものに影響が及ぶ。ん、これはチキンだけに限った事ではなさそうだね君」
そう促されたキュウリ魚君は
「確かにそうです。なんでもかんでも海外のいいなりはいけません。そろそろ日本人は日本人であることに誇りを持たないといけません」
と言う。

七面鳥の腹の中を探り、詰め物をほじくり出していたエイのヒレ君が話し始めた。
「この国の誇りですか。僕はそんなものとっくに失ってしまったように思います。唯々アメリカのいいなりになり、グローバル化と言っては魂を売り渡した。けれども変なプライドだけはあるから困った物です」
エイのヒレ君は小泉政権の竹中経済政策で会社を失いひどい目にあったのである。だから小泉政権に対して手厳しく続ける。
「小金丸の婆が潤うことが結局庶民の我々にも恩恵があるとしたがどうでしょうか、結局小金丸の婆は我々を益々見下すばかりでなんの恩恵もない」
エイのヒレ君は更に続ける。
「金持ちと僕たちにどれ程の差があるのでしょうか。僕なんか自慢じゃないが若い頃には24時間365日会社のために働かされた会社人間でした。やれ、クリスマスだの正月だのと彼女とデートする間などなかったものです。それが時代が変わっただの、グローバル化だのとあっさり会社は破産。ほうり出された社員はたまったものではない。ようやくこれから報われる年齢になったのにですよ。それが今ではフリーターとは何とも情けない」
そう言うと一気に酒を飲み干した。それからポイと七面鳥の骨を籠に入れるとため息とともにこう呟いた。
「小金丸の婆と僕の違いはなんだと思いますか?」

キンカン坊主が一言
「小金丸の婆はケチだ」
キュウリ魚君は少し考え込みながら
「あの婆さんは異様な細かさと執拗な執着心」
名月君も調子に乗って賛同する。
「あんなあつかましい奴はいない」

エイのヒレ君は意を得たように言う。
「そうなんです。違いはそんなところです。なにも特別に努力の差があったわけではない。頭脳の明晰さは余程キュウリ魚君の方がランクが上です。つまり我々は生きることが下手くそなんです」

「生きることが上手な人間は人の気持ちを理解できないでしょうな。踏まれて涙をながし、血を滲ませた人間でないといけない。そういうところから考えると我々は高尚な人種であるな」
名月君がそう威張ると拍手が起こった。

「そうは言ってみてもやっぱり負け犬の遠吠えでしょうな。でもね。どんな道を歩いても行き着く先は同じで死があるだけです。どんなに生きることが上手な人間であれ死を逃れることはできない。どうであれ今の自分を受け入れて有り難く生きることですぞ」
キンカン坊主はそう言うと美味そうに七面鳥にかぶりついた。

安倍川餅と税金

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キュウリ魚君が安倍川餅を持って来た。
いつかのパソコンのウイルス対策のお礼だと言う。

まあお茶でも飲みながら休んで行きなさいと座敷に上がってもらった。

早速頂いた安倍川餅をぱくつきながら学校のことなど話していると税金の話になった。
貧乏人にとって全く嫌なものである。

キュウリ魚君は臨時の教師だから薄給である。
「やれどこそこでアルバイトをしたはずだからその分を払いなさいと督促してくる」

キュウリ魚君は大層不満顔でそんな小言を言い、
安倍川餅を長く伸ばしなら食う。
そしてまた喋る。

「僕のような年収百万かそこらの人間からむさぼり取ってどうするのかと言いたい」

確かにそうである。
そして、その時の彼らの言葉は決まってこうだ。

「国民皆平等にいただいているものです。我々は公平にあたっているだけです」

そう言って威張るのである。
平等だの公平などを都合の良いように使うけしからん輩たちである。

「一人勝ちしている連中からたっぷり取り上げればいいんだ。
大体総理だって多額の脱税をしているではないですか。
僕は民主党には頑張ってもらいたいと思っているのですが、
僕ら貧乏人から巻き上げる前にまず金持ちからやりなさいよと言いたいのです」

そう言うと安倍川餅のきな粉が気管に入り込みひどい咳に苦しみだした。
そして、ぐいとお茶を飲み干した。

安倍川餅の起源は家康の時代に遡る。
安倍川の金な粉餅として家康に献上されたものらしい。
当時では高級な白砂糖を使用した高級品である。

菓子はばくばく食う物ではない。
高価な物を少し食うのが良いのである。
そうキュウリ魚君に言った途端鼻がムズムズする。

鼻の穴に蚊でも進入したかのようである。
そうして激しくクシャミをしたら
きな粉が砂金を散らした様に舞った。





仕事の締切に追われながらもさっぱり手が進まない。


机の上の鉛筆立ての場所がどうも気に入らない。
少し動かしてはまたじっと見る。

やっぱり気に入らないのでまた少し動かしてみる。

そして鉛筆立てに飽いたら今度はマコロンをひとつ摘む。
マカロンではなくマコロンである。
砂糖をポロポロこぼしながら、濃い茶を飲む。

そうしたらまた鉛筆立てが気になって仕方ない。

そんな風だから仕事はさっぱり進まないのである。


結局いい加減な仕事で終わらせるのだから出世しないはずである。


大体計画的に勉強なり、仕事をやる性質なら今頃こんなつまらない仕事なんかやってはいないであろう。


こんなつまらない仕事をしながらマコロンを食う自分と出会えたのも、
暢気な性質のおかげだと思ったりして自分を慰めてみる。


けれども、こんな仕事なら小学生にだってできるに決まっている。
わざわざシステム屋さんのやることではない。
一体全体世の中おかしい。

段々腹が立ってくる。
腹が立つと、もう仕事どころではない。

またひとつマコロンを食う。

案外世の大人達はそんなどうでも良いような仕事に
わざわざ難しい顔をして取り組んでいるのかもしれない。

そうでもしなければ、あんまり自分が情けなくなるからである。


ざまあみろ。
そうに決まっている。
そんな風なことを勝手に思いながら
またマコロンをひとつ頬張った。





キュウリ魚君の紹介で月に数回小学校へ行くことがある。

簡単にいえばボランティアで児童の教育に協力することである。


キュウリ魚君の紹介ならということで板垣退助のような顔をした校長も歓迎してくれた。


そんなことから小生は時々小学校に出入りをしているのである。

そんなある日のこと。


その日の役目も終えて校門に向かった。
校門の近くにはニワトリ小屋がある。

そこに児童数人が集まり、なにやらこそこそしている。

一体何をやっているのか遠目に観察していると、
細い棒でニワトリの尾っぽを突いているのである。

一体どういう了見なのか、しばらくそんな悪ふざけを続けていると
とうとうニワトリも我慢できずに「コケッコッコー」と
一発雄叫びを上げた。

そのあまりのおおきな鳴き声に流石の悪童達も
一目さんに逃げ出した始末である。


50センチメートルはありそうな立派な雄鳥は
さらに続けて「コケッコッコー」という。

いい顔をしている。

時々パソコンを習いにくる頑固な廣田の爺さんのような顔である。


最近では悪童の悪ふざけにたいして
こうも凛として一括する大人が減ってしまった。

それというのもこれというのも小金丸の奥方のような連中の責任である。
やれ生徒を叱っただのどうだのと喚き散らし放題の連中の責任なのである。

少しは校庭のニワトリを見習えばよいのである。

ワニを食った話

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シロン君達と別れて帰ろうとしたら名月君からメールが来た。

今日は美味い物を食わせるから是非来いという内容である。


森林公園で散策したばかりでわざわざまた名月君が来いという房総までは行く気になれない。

今日は生憎用事があると適当に断った。

それから数日後、名月君は実に美味い物を食ったと自慢を始めた。

何がそんなに美味かったのかと尋ねると、

ワニを食ったと言う。


キュウリ魚君は少し怪訝そうな顔をしてワニといえばハンドバッグになるワニのことですか、と聞き返した。

いやいや、そのワニではない。

一寸変わった食い物だったが、随分と美味だったと威張る。

けれどもキュウリ魚君はあまり興味を示さない。

彼はオートミールを食っていれば満足する人種である。
美味とは無縁な人らしい。


けれどもエイのヒレ君は名月君の美味い物を知りたくて仕方ない。

「ほう、では一体どんな食い物だったのですか」

「そうだな、その香ばしさたるや鰻の蒲焼き以上。その味はまるでアンコウの肝のように濃厚だった。」

「で、その正体は?」

そうだな、そのうち食わせてやっても良い。

そう言うと得意げに小籠包をポイと口に放り込んだ。

放り込むと口に肉汁が飛び出し、熱い熱いと大騒動である。


とうとうワニの話どころでは無くなってしまった。


シロン君のこと

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シロン君は胃が弱い。
なにしろ芸術家だから職業病のようなものである。
だからシロンばかり飲んでいるのでシロン君である。

シロンはパンシロンの姉妹品である。
パンが付かないだけに地味だがなにより安いので愛用者は案外多いのかもしれない。

最近では胃痛にはH2ブロッカーがよく効く。
けれどもやっぱりシロン君はシロンを愛用している。
おそらく彼にとってシロンは生活の一部なのだろう。

そんなシロン君とその奥方で近くの森林公園を散歩した。

シロン君と奥方は正式に結婚をしてない。
けれども一般の夫婦よりも仲がよろしい。
仲はよいが子供はいない。

どうやら訳ありらしいがその訳は誰も知らない。


名月君はいつも訳を聞きたがるが、シロン君は苦笑いするばかりで決して秘密を明かさない。

シロン君の奥方は牛乳のような色白で瞳の大きい美人である。

今日は髪を上げているので首筋がなんとも色気を醸し出している。
思わず引きつけられてしまいそうである。

三人は赤や黄色に敷き詰められた落ち葉の上を歩きながら落ち葉の匂いを楽しんだ。

「この公園には青ゲラがいるんだ」

シロン君がそう言うと、案外キツツキは身近にいるものですねと奥方が答える。

今日は一段と空が青いね。と小生が全く関係ないことを言うと

「青ゲラの青は空の青ぢゃない。淡い緑の模様があるのさ」

シロン君がそう言うと、奥方は頭には赤い模様があるのと私に教えたくれた。


霜月の木漏れ日は柔らかい。
裏寂しくなるヒヨドリの声に鈴なりの柿がよく似合う。
時計の針が殊の外ゆっくり動いているようである。

小春日和の晩秋の一時はシロン君と奥方を一枚の絵に閉じ込めたかのようである。


ここからコマーシャル









気の置けない友人と会話も進み、楽しい一時が過ぎる。

そんな時熱いお茶が有り難い。

更に甘いものがあれば更に会話も弾むことであろう。

 

仕事が一段落したとき、一杯のお茶と甘い物も嬉しいものである。

 

紳士にとって甘い物といえば羊羹、最中、かりんとうと相場は決まっている。

高級な菓子を特別に取り寄せてみるのも贅沢な楽しみである。

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酔っぱらった名月君は酒を混ぜた牛乳を猫に差し出す。
猫は恐る恐る舐めてみる。

一回、二回と舐めて納得したのか、これは案外うまいという顔でしきりに飲み始めた。
飼い主のキンカン坊主はすっかりご機嫌で居眠りしている。


名月君は美味そうに酒入りの牛乳を飲む猫を眺めながらこれからの日本について話し始めた。

政権が変わろうともこの国の行く先は見えてこない。
近頃の政治家はどうも器が小さくていけない。

我々庶民と感覚が変わらないから困る。
もっと夢を語ってもらわないとね、元気もでない。

俺なら石油に変わる新エネルギーを国策でやるね。
居眠りしていた坊主が突然喋りだした。

散々酒入り牛乳を飲んで足下をふらつかせる猫を懐にかかえながら続けた。

まずは電気自動車のインフラを整備する。
全国のガソリンスタンドに電気注入器を作る。
勿論、電気は石油なんぞ使わないで供給する。
全てのエネルギー資源を電気に変えるのだ。

そして電気自動車をがんがん作る。

そのための投資をするのだよ。
勿論そのための研究開発費とか教育にも力を入れる。
世界に冠とした電気立国を作るわけだ。

ほほう、流石は工学博士。
とても坊主の考えとは思えないと名月君は褒める。
褒めながら、酒入りの牛乳を猫に差し出すと、猫は坊主の懐を離れてまた牛乳を舐め始めた。

キンカン坊主は猫を放ったまま続けた。

次に朝鮮半島に海底トンネルを掘って新幹線を走らせる。
新幹線は朝鮮半島から中華を横切り、蒙古に行く更にはヨーロッパへ出てイギリスまで渡るのさ。
ちまちま新幹線技術を売ってまわるより、日本の技術で新幹線をイギリスまで走らせれば良いのだ。
これで鉄道技術と新エネルギー技術をまとめて世界に売ることができるわけぢゃ。
東京とロンドンがレールで繋がれば日本とヨーロッパは急接近できる。
アメリカに対してもいい牽制にもなるはずぢゃ。

どうかな?

名月君はそれは名案だと言って更に猫に酒入りの牛乳をやる。
流石に猫もふらふらである。

名月君とキンカン坊主で飲んだ日のことである。

近くのスーパーで買ってきた猪肉の鍋に舌鼓を打ちながら
名月君はすっかり上機嫌である。

「キンカン坊主はなんて言ってもキンカン頭が素晴らしい。
第一そのテカリ具合が上品だ。
大抵はそうはいかない。
それもこれもキンカン坊主の精進の賜物に違いない」

そう言って盛んに有難がる。


酒も手伝って丁度いい案配の色が出て、
熟れ頃のキンカンのようである。

「そもそも工学博士の坊主なんて滅多にお目にかかれない。
その点我々は恵まれている。
やっぱり、どういうのか、あの仏門の世界は相対論で数式化できないものかね」

名月君の問いかけにキンカン坊主もお調子者だから早速数式を並べ立てた。

akeisu.gif

てところかな。
わけのわからない数式をポン酢の醤油で障子に書いてみせる。

「これはすごい。あんたはやっぱり天才だ」
名月君が褒めるとキンカン坊主はさらに調子にのり
歌いだし、踊り出した。

そして終いには着けているものを全部ぬいで赤パンツ一丁で裸おどりをはじめた。

大騒動である。