お人好し人間やめたのに
わしは貧乏たれのくそ坊主だ。坊主といっても名ばかりのくそ坊主であって何も有り難いことはない。そんなくそ坊主も表面づらはなんだか間抜けでお人好しにみえるらしい。
見知らぬ土地で道を聞かれたり、観光地ではカメラのシャッターを押してくれとよく頼まれる。大勢の中から選んでである。
わしはこれまで、さんざんいいように使われ、電車の椅子とりゲームではいつも最後に取り残される間抜けな人間である。よりによって他人様のお役にたつ人間になろうなどとは露程にも思わない。せいぜいほっといて欲しい。そんな人間である。
この前こんな事があった。浅草橋近辺を用事で歩いていたらババアが坊主(もちろん袈裟なんか着てない)に向かって道を聞こうとした。坊主はこの近辺は全く知らないから取り合わずに行き過ぎようとした。このときまた頭をよぎった、「これだけの人が歩いているのによりによってわしに聞こうとするのか」ババアのことを恨めしく思いながら歩き去ること50メートルほど。さっきのババアが追いかけてきて坊主の腕をぎゅっと引っ張った。「ちょっとなによ!その態度。あたしゃ物売りや勧誘と違うからね。なんで道を教えてくれないだ。本当に気分の悪い人ね」そういって睨め着けられた。
勝手に指名され、わからないから知らん顔をしたら、気にくわないと因縁をつけられる。それもクソババアにだ。「へい、申し訳ござんせん。あたしゃこのあたりは不慣れな者でお許し下され」と丁寧にお詫びしろとでもいうのか。ババアは散々悪態をついて消えていった。
坊主は秋の日差しに長くなった己の影をむなしく見つつ思った。
「わしも地に落ちたものぢゃ」


